製薬企業の国際競争力が問われる時代へ

1990年代から2000年代前半にかけて欧米の製薬企業の相次ぐ合併により、ファイザー、サノフィ・アベンティス(現サノフィ)、グラクソスミスクライン、アストラゼネカなど世界を代表するメガファーマが誕生しました。日本国内においてもロシュが中外製薬を系列化するなど各社は日本市場での活動を強化し、中長期的な経営戦略を打ち出しています。

製薬企業の社員

国内の企業では元来海外に強みを発揮してきた山之内製薬と藤沢薬品が2005年に合併してアステラス製薬、三共と第一製薬の経営統合による第一三共の誕生など、2000年代に入り業界の再編が進んでいます。

国内の製薬企業が競争の激しい医薬品産業を生き残るためには、欧米の企業に引けをとらない国際的な競争力が求められます。世界市場を視野に入れた新薬の研究開発に必要な年月、費用も年々増加しています。1品目を上市するためには十数年から20年、数百億円以上の経営資源が必要なため、これに耐えうる経営規模、状態が確保できる製薬企業だけが国際競争力を持てるという時代になっているのです。

生産面では日本特有の流通の性質上、一企業が幅広い薬効分野にブランドを確立しようとするため、多品種少量生産の傾向が強く、その分だけ海外の企業に比べてコスト高となるというデメリットを抱えています。このように日本の製薬企業の国際競争力は不十分といわざるを得ず、今後どのような対処をするかが大きな課題となっています。

しかし、世界の売上上位にランクインしている製品には、国内の製薬企業の医薬品も少なくありません。消化性潰瘍治療薬(タケプロン:武田薬品)、子宮内膜症・前立腺治療薬(リュープリン:同上)、消化性潰瘍治療薬(パリエット:エーザイ)、アルツハイマー治療薬(アリセプト:同上)などは日本企業発のブロックバスターの代表です。

日本企業の欧米市場進出はライセンスアウトによるバルク輸出やロイヤリティ収入に始まり、近年はこれらのブロックバスターは共同販売、共同販売促進、自社単独での販売などに移行しています。日本企業の創薬力は規模という面では欧米のメガファーマに劣るものの一定の国際競争力は維持しているといえます。

今後はヒューマンゲノムや疾病関連タンパク質研究など、発展が著しい医学・薬学の技術を活かし、患者ニーズに応える新薬の研究開発により、医療の正しい発展と国民の健康を守る子を目指して、医薬品産業が発展することが期待されています。

泌尿器科で診察する排尿トラブル

尿の通り道を「尿道」といいますが、女性に比べて尿道が長く、周囲に前立腺がある男性は、高齢になると前立腺が大きくなって尿道を圧迫するため、排尿困難などのトラブルに悩まされやすくなります。男性に多いのが、この排尿困難が進行し、腎臓で作られた尿が膀胱一杯にたまり、少しずつ尿道の隙間から溢れてくる尿漏れで、泌尿器科の専門用語では溢流性尿失禁として分類されています。


男性は50歳を超えると20%の割合で前立腺の肥大がはじまり、排尿時間が他の人よりも長くなったり、トイレの間隔が短くなったり(頻尿)、夜間にトイレで何回も起きる(夜間頻尿)などの症状が現れます。これは残尿がどんどん増えていき、膀胱に尿が溜まらなくなったためです。そして、いつも尿が残っている感じがして、尿が膀胱一杯に溜まっても、それに気付かずに尿漏れを起こしてしまうのです。ご自身の前立腺肥大の度合いは「国際前立腺症状スコア(I-PSS)」という指標で簡単に判別できますので、ネットで検索してみてください。

前立腺肥大症のほかにも、頻尿や尿漏れの原因としては、前立腺がんや膀胱がん、細菌感染で起こる膀胱炎、尿道炎、前立腺炎、さらに腎臓や尿管の結石、脳卒中や脊髄の損傷後遺症による神経障害、高血圧や心不全の薬による利尿作用などが考えられます。

また40歳以上の男性の15%、女性の10%は膀胱が勝手に過敏な働きをしてしまう「過活動膀胱」による頻尿や尿漏れに悩まされているというデータがあります。予防法としては、水分の摂り過ぎに注意し、ビールなどのアルコール、カフェインを含んだコーヒー、日本茶、刺激の強い食べ物を避けるようにしましょう。

また、導尿や尿道カテーテルを使用している人は、旅行への不安も抱いている方が少なくないとききます。導尿は短いカテーテルで間歇的に排尿します。管は消毒液の入った棒状の容器に納まり、バッグに入れることができます。日常身体に管はついていませんし、トイレでは大用を利用すれば旅行に問題はありませんが、管を扱う際の感染に注意しましょう。

尿道カテーテルは尿道にゴムまたはシリコン製の管が留置されています。膀胱にお腹から直接留置、あるいは腎臓に脇腹から直接留置するタイプがあります。これらは、衣服の中に納まるので外見からはわかりません。大用のトイレで排尿が可能ですが、管が挿入されているところの周囲よりの漏れ、感染や長期留置による結石の付着、膀胱の萎縮が問題となります。旅行の出発前に好感しておけば、14日くらいは問題ありません。医師によく相談してから旅行の段取りを整えてください。

ゲノム(DNAの塩基配列)解析を創薬に生かす

大腸菌やハムスターの卵巣細胞などに遺伝情報を操作したDNAを組み入れて、目的とする薬を開発する技術は80年代後半に実用化されました。現在、この「遺伝子組み換え」の手法で作製されている医薬品は、糖尿病の血糖コントロールに欠かせないヒトインスリン、C型肝炎に使用されるインターフェロン、脳下垂体から分泌される各種ホルモンなど、ヒトの体内(細胞)で生成される物質を対象にたくさん開発されています。

遺伝子組み換え技術の発展

なかでも、腎臓に起因した貧血を治療するエリスロポイエチン、白血球を増やすことで感染症から守るG-CSF(顆粒球増殖因子)は、多様な疾患の治療を可能にした画期的な医薬品となっています。

エリスロポエチンは赤血球をつくる造血因子ですが、腎臓の機能が障害されると生成されなくなるため、腎不全が進行した患者さんは思い貧血になってしまいます。このエリスロポイエチンを遺伝子組み換え技術によって、安定かつ安全に人工的に生成することができるようになったため、人工透析を受ける患者さんは、投与を受けることで腎臓に起因した貧血は改善できるようになりました。

腎機能が正常な人に投与しても赤血球を増やす働きがあるので、手術を予定している患者さんに投与すれば自分の血をあらかじめ溜めておいて出血に備えることができ、輸血による拒絶反応や感染症などのリスクを回避することもできます。

もうひとつのG-CSF(顆粒球増殖因子)、白血球の顆粒球を増やす働きがあり、これにより抗がん剤治療は進歩しました。といのも、抗がん剤には白血球が減少するという副作用があり、細菌やウイルスによる重篤な感染症で死亡することがあり、十分な投与ができないことがあったからです。

G-CSFの医薬品を投与することで、白血球を迅速に増やし感染症から身を守ることができるようになり、十分な抗がん剤治療が可能になったのです。

患者側のメリットも大きいクリティカルパス

患者ごとの治療内容がスケジュール表にまとめられたものがクリティカル(クリニカル)パスと呼ばれるもので、横軸に日時(入院○日目、手術日など)、縦軸に目標や、その日に行われる予定の医療行為(薬剤、治療、処置、検査など)、安静度、清潔、栄養などの項目が設けられています。

医療の質の向上と経費削減を実現

経営側の立場で見ると、導入後、平均在院日数が短縮し、1床あたり1日医療収入が増加する傾向にあります。また、標準的医療の提供を可能にし、コスト削減、資源の節約、チーム医療としての機能向上などのメリットがあります。入院中の治療予定が分かり、退院の予定が立てられるなど患者側のメリットも小さくありません。

このクリティカルパスに沿った薬剤や検査などのオーダのセットのことをセットオーダパスといいます。対応したオーダを一括で取り出すことができ、オーダの回数は、医療スタッフがエントリシステムでオペレーションを繰り返している回数であり、これをセット化し、クリティカルパスに対応させることで、医療スタッフの負担軽減、業務効率の向上が可能になります。

しかし、あらかじめ複数のオーダがセットされているため、研修医など若い医師が自分で考えなくなるなどの弊害も指摘されています。

医療の標準化の実現により、医療の質の向上と費用の削減を同時に達成することができますが、本来その患者にとって必要の内検査や薬剤もオーダされているケースも多々見られるので、使い方においては検討すべき課題も少なくありません。

皮膚科の医師による真菌症の診断

足白癬は皮膚糸状菌によって生じる真菌症です。日本ではおよそ2100万人が罹患しているといわれ、発症頻度には性差はありません。年齢別発症頻度は10歳以下の幼少時は3%以下で、20歳代より急激に増加し、20~30歳代の青壮年層が全症例の約半分を占めるとされています。

医療機関の診断

足白癬には、指の間が赤くなって皮がむけたり、爛れたり、皮がふやけたりするタイプ、足の裏側や側面などに細やかな小水疱ができて周りが赤くなるタイプ、足の裏全体がカサカサして厚く硬くなり、ボロボロと皮がむけたり、踵がひび割れてあかぎれのようになることがあるタイプの3つに分けることができます。

足白癬の診断は臨床症状からある程度可能ですが、接触皮膚炎、湿疹、アカギレに代表されるいつかの疾患との識別が必要です。臨床症状のみでは、皮膚科専門医でも誤診がありえます。そこで必ず直接鏡検を必要とします。足白癬の確定診断には、病変部に真菌が存在することを証明しなければなりません。

直接鏡検で菌陽性となった場合、例えば軽いびらんや亀裂がみられるときには、テラジアパスタ、亜鉛華軟膏などで病変部を乾かします。その後に殺菌のある抗白癬薬を塗布します。びらん部分などに直接、抗真菌薬を塗布すると、抗白癬薬による接触皮膚炎などを起こすリスクがあるため避けます。また、びらん部にはクリームの外用剤は禁忌です。