ゲノム(DNAの塩基配列)解析を創薬に生かす

大腸菌やハムスターの卵巣細胞などに遺伝情報を操作したDNAを組み入れて、目的とする薬を開発する技術は80年代後半に実用化されました。現在、この「遺伝子組み換え」の手法で作製されている医薬品は、糖尿病の血糖コントロールに欠かせないヒトインスリン、C型肝炎に使用されるインターフェロン、脳下垂体から分泌される各種ホルモンなど、ヒトの体内(細胞)で生成される物質を対象にたくさん開発されています。

遺伝子組み換え技術の発展

なかでも、腎臓に起因した貧血を治療するエリスロポイエチン、白血球を増やすことで感染症から守るG-CSF(顆粒球増殖因子)は、多様な疾患の治療を可能にした画期的な医薬品となっています。

エリスロポエチンは赤血球をつくる造血因子ですが、腎臓の機能が障害されると生成されなくなるため、腎不全が進行した患者さんは思い貧血になってしまいます。このエリスロポイエチンを遺伝子組み換え技術によって、安定かつ安全に人工的に生成することができるようになったため、人工透析を受ける患者さんは、投与を受けることで腎臓に起因した貧血は改善できるようになりました。

腎機能が正常な人に投与しても赤血球を増やす働きがあるので、手術を予定している患者さんに投与すれば自分の血をあらかじめ溜めておいて出血に備えることができ、輸血による拒絶反応や感染症などのリスクを回避することもできます。

もうひとつのG-CSF(顆粒球増殖因子)、白血球の顆粒球を増やす働きがあり、これにより抗がん剤治療は進歩しました。といのも、抗がん剤には白血球が減少するという副作用があり、細菌やウイルスによる重篤な感染症で死亡することがあり、十分な投与ができないことがあったからです。

G-CSFの医薬品を投与することで、白血球を迅速に増やし感染症から身を守ることができるようになり、十分な抗がん剤治療が可能になったのです。